「壱岐なみなさまこんにちは!」
「Iki-Biz(イキビズ)」のホームページやフェイスブックを開くと、センター長をつとめる森俊介さんの元気なあいさつが目に飛び込んでくる。フェイスブックに並ぶのは、ほれぼれするほど美しい壱岐の自然と、おいしそうな食べ物の写真だ。顔いっぱいに笑いながら、島のグルメをほおばる森さんの写真を見ていると、いますぐ壱岐に飛びたくなってくる。
二〇一七年にオープンした「Iki-Biz」は、森さんを中心とする三人の移住者のメンバーが運営する、離島のおしごと相談所。壱岐市内で仕事に悩みを抱える人の相談を受け、販路拡大、新商品開発のアイデアや、チラシ、ホームページの制作など、すべて無料でサポートしている。
子どものころから、外で遊ぶより家で本を読むのが好きだったという森さん。いつしか自分の図書館をつくるのが夢になった。
大学卒業後、リクルートを若くして退職し、留学やNPOのお手伝い、アイドルの追っかけ日本一周旅行などを経て、二〇一四年七月、ついに、渋谷に「森の図書室」をオープンさせる。資金集めの手段はクラウドファンディング。当時の日本記録となる支援者数を達成し、約一千万円を集めて話題となった。
「リクルート時代からずっと、渋谷のスクランブル交差点から歩いて五分くらいのところに住んでいました。図書室をオープンしたあとも、飲食店や格闘技フィットネスジムなどいくつかの事業を立ち上げてきました。いまはそれらの事業はスタッフにまかせたり、代表を譲ったりして、ほぼIki-Bizに専念しています」
森さんの行動力はすさまじい。渋谷に“深夜営業の私設図書室”という新しいカルチャーを生み出すのと同時に、地方で起業したいと思い描きはじめたのは、当時の彼女(いまの奥様)との婚約がきっかけだという。
「結婚して子どもができたら……と考えたとき、渋谷で子どもを育てるイメージがわかなかったんですね。地方への移住を考えていたちょうどそのとき、Iki-Bizのセンター長を募集していることを知りました」
さっそく彼女と壱岐島へ向かうと、意外とアクセスがいいことに驚いた。
「しかも食べ物がすごくおいしくて。僕、食べることが大好きなんです。壱岐の人々にも優しくしてもらって、すごくよさそうなところだなという印象を受けました」
Iki-Bizのセンター長には、全国から三九一人の応募が集まった。最終試験は「人が集まらない」などの壱岐の事業者の悩みを矢継ぎ早に浴びせられ、その場でどんどん回答していくというもの。まったく自信がなかったというが、参加者からは森さんに相談したいという声が集まり、晴れてセンター長に抜擢された。
現在は副センター長の平山真希子さん、クリエイティブディレクターの梅田雄介さん、そして森さんの三人で運営している。
すっきりシンプルだけれど、どこかほっと和むIki-Bizのオフィスには、今日も来客と笑いが絶えない。少数精鋭で立ち上げの激動を乗り切ってきたからか、三人はとても仲が良さそうだ。切れ者の若手起業家なのに、どこかシャイな森さんを理解し、盛り立てているようにも見える。
「島には高齢の方が多いし、Iki-Bizって横文字だし、最初は“Iki-Bizってなにをやっているんだろう?”という感じだったと思うんですよね。でも、最初に来てくださった方が“行ってよかったよ”という口コミを広めてくれたおかげで、利用者がどんどん増えて。相談件数のペースは目標をかなり上まわり、四月で六〇〇件を超えました。人手不足でなんとかしなきゃと思ってるんですが、いまは三週間先まで予約で埋まっています」
名実ともに「行列のできる相談所」となったIki-Biz。壱岐に来てから一〇キロ増量したという、からだを張った森さんのアイデアもあり、次々と話題の壱岐グルメや地域を巻き込んだ取り組みを生み出している。
近すぎないからこそ、見えてくる魅力がある。次々と新しい扉を開け、新鮮な風を呼び込む森さんに誘われるように、壱岐の人も自然も華やぎを増している。
(後編に続く)