集合場所の公園に着いて携帯を見ると、「ごめん、十二時ちょうどになる」と美穂から連絡が来ていた。
相変わらず律儀だ、と思う。定刻どおりに着くなら、別に連絡なんかしなくてもいいのに。続けて鳴った携帯に目をやると、十五分くらい遅れるという連絡が梨香から入った。こっちも変わらないなと笑ってしまう。
「桜の開花、来週らしいよ」と美穂からメッセージが送られてきたのが三週間前だった。梨香と響子が花見だ花見だと騒いでいるうちに、美穂が淡々と日程調整を進める。ワンテンポ遅れて行けそうだと返信をすると、三人から一斉に「久々だ」「やった!」とメッセージが来てほっとした。
壱岐を出てから十年が経つ。高校を出たばかりの頃は毎年恒例だった四人での花見に、私はここ二年、顔を出せていなかった。
二十代半ばで転職したベンチャー企業は激務続きの環境で、二年前の花見の日にも、急遽仕事が入ってしまったのだ。
それから一年が経ち、昨年の花見の日にも「ごめん、どうしてもその日出勤しなきゃいけなくて」と連絡を入れた。全員から寂しいとか会いたいとメッセージが返ってきたとき、嬉しい反面後ろめたい気持ちになったのは、その日、ほんとうは別に出勤する予定なんてなかったからだ。
満開を少し過ぎた桜を見上げながら歩道橋を渡る。向こう側に手を振る人が見えた気がして前を向くと、美穂が「こっち!」と叫んでいた。
「ちょうどいま着いたんだ。うわあ、なおみが来れるのいつぶり?」
「ええと……たぶん、二年ぶりかな」
「仕事忙しそうだったもんねえ。ほんと偉いわ」
ロングだった髪をボブにした美穂に、「髪切った?」と聞いていいか迷う。もしも「切ったのすっごい前だよ」と言われたら、うっすらとショックを受けてしまいそうな気がしたからだ。
「梨香ももうちょいで着くかな。響子朝から連絡ないけど、起きてると思う?」
最悪、寝てるかもしれないよね、と言いながら美穂を見ると、「やっぱそう思う?」と目を細めている。
「卒業してこんな経つのに遅刻するメンバー同じなのすごくない?」と文句を言う美穂は、怒っているのかと思いきや、どこか嬉しそうだ。
ビニールシートを敷いていると、梨香が息を切らしながら走ってきた。響子から「いま電車乗った」と連絡が入ったのを見て全員で笑い、じゃあ、先に飲んじゃおうという話になる。
「乾杯!」
グラスを合わせると、誰からともなく「うわあ」「なにこれ、久しぶり」「もう楽しい!」と声が上がる。部活やクラスが特に一緒だったわけでもない私たちのいちばんの共通点が“酒好き”だとわかったのは、大人になってからのことだ。
「去年さあ、響子が一升瓶持ってきて『こんなの三人で飲めるか!』ってめっちゃ責められてたんだよ」
「でも結局飲めちゃったんだよね」
思わず声を上げて笑うと、「ほんと、今年はなおみがいるの嬉しいなあ」と美穂が言う。仕事がずっと忙しくて、と言いかけて梨香を見ると、もうすでに上気した頬の彼女が私の顔を覗き込んで、
「おととしの冬、たまたま渋谷で会うたとき、なおみしんどそうやったもんね」
と言う。
「あのとき、その話したら、『なおみそういうの隠そうとするけん、もしかしたら次の花見来んかもしれんね』って美穂言ってたよ」
美穂を見ると、酒に強い彼女も少しだけ顔を火照らせて笑っていた。「私、そんな壱岐弁ばりばり出んくない?」と言う美穂も梨香も、酔うとあのころの言葉に戻るのを私は知っている。
一年前、体壊してちょっとだけ休職しとったんよね、と言うと、ふたりはさして驚いた顔もせず、「そっかあ、そういうんあるよね」と笑った。
焼酎持ってきたから最後に開けよっか、と美穂が大きなリュックサックを覗き込んでいると、遠くから「ごめん!」と叫ぶ声が聞こえた。あ、響子だと梨香が言う。
二度目の乾杯の準備をするために、私はレジャーシートに落ちた桜の花びらを払った。
【壱岐のあれこれ#24】
春めいてきたこの頃、お花見やピクニックなど、週末のレジャーの予定を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。
青空の下でレジャーシートを広げてお酒を飲む、と言うと、どうしてもビールやチューハイで乾杯というイメージが強いかもしれません。しかし、そんなときこそ一本あるととても重宝するのが、焼酎です。
壱岐の特産である壱岐焼酎は、華やかな香りと香ばしさを併せ持つ、焼酎ビギナーにも飲みやすい焼酎。特に、癖のない壱岐焼酎「壱岐グリーン」などは、最初は水割りやソーダ割り、お酒に強い方はストレートやロック、外が少し肌寒くなってきたらお湯割り……と、さまざまな飲み方を楽しむことのできる懐の深い一本です。
お花見やピクニックの前、酒屋さんや百貨店に寄り道して、壱岐焼酎を一本持っていってみてはいかがでしょうか。