焼酎造りの過程のなかで、仕込みや蒸留が最重要なのは言うまでもない。しかしそれと同じくらい、あるいはそれ以上に焼酎の個性を左右するのが、「熟成」の期間と方法だ。
蒸留を終えたばかりの焼酎の原酒は、麦焼酎や米焼酎の場合は四三~四五度、芋焼酎の場合は三八度前後。アルコール度数の高さが示すとおり、口に含んでみると荒々しく、癖も強い。
ここから度数調整のための加水を経て、数か月ほどで出荷されるものもあるが、一部の焼酎は「熟成」の期間に入る。
熟成期間は、短いもので一年半~二年ほど、長いものだと二十年近くにもなる。お酒好きの方のなかには、成人した我が子と一緒に熟成された焼酎を飲むことを夢見て、子どもの誕生祝いにお気に入りの銘柄の焼酎をかめごと購入する、なんて方もいるようだ。
前述した「かめ」のほかに、焼酎を熟成させるための貯蔵容器には「タンク」と「樽」がある。かめ貯蔵と聞くと泡盛を想像する方も多いかもしれないが、本格焼酎においてもよく用いられる貯蔵方法だ。かめの無機物の溶出物が熟成変化を促進することによって、甘くまろやかな味わいになることが知られている。
タンク貯蔵はもっとも一般的な貯蔵方法で、空気を通さず溶出物がないため、温度変化によってタンク内で自然対流が起き、熟成が進む。タンクそのものの匂いや成分の影響を受けないため、クリアな味わいの焼酎ができる。
そして樽貯蔵は、樽から溶け出す色素と移り香によって、樽ごとの個性に応じた味わい深い焼酎を造りだす。ウイスキーのような美しい琥珀色も大きな特徴だが、実は、あまりに色が濃くなるとウイスキーとの見分けがつかなくなるという理由から、それよりも色を薄くしなければいけないという規定が存在する。
独特の芳香を持つ樽貯蔵の焼酎は、洋酒の愛好家などにもファンが多い。玄海酒造では、昭和三十年代の早い時期から樫樽による貯蔵をおこなってきた。
現在はスペインの樽を用いており、ひとりの職人がつきっきりで焼酎の色づきや香りづきをチェックしている。樽ごとの個性を見極め、複数の樽の焼酎をバランスよくブレンドすることで、品質にばらつきのない美味しい熟成酒が二年ほどでできあがる。
たかが貯蔵、と思われるかもしれないが、育つ場所でひとの性格が大きく変わるように、焼酎も熟成する場所と歳月によって個性に大きな差が生まれる。短い期間で出荷される焼酎もフレッシュで魅力的だが、長い年月寝かせれば寝かせるほど、焼酎は円熟味を増して味わい深いものとなる。
焼酎を味わうときには、ぜひ貯蔵方法ごとの色や香り、風味の違いにも思いを馳せてみてほしい。
【壱岐のあれこれ #26】
コラムでご紹介した、個性豊かな香りが特徴の樽貯蔵の焼酎。玄海酒造では、「壱岐スーパーゴールド22」「壱岐スーパーゴールド33」という、むぎ焼酎壱岐をホワイト・オーク樽に貯蔵し熟成させた2種類の樽貯蔵酒を造っています。この「22」と「33」はそれぞれアルコール度数を示したものですが、どうしてこんな中途半端な数字に? と思われる方もいるのではないでしょうか。
実は「33」は、壱岐が北緯33度にあり、玄海酒造の初代が焼酎製造免許を取得した日が明治33年3月3日である──ということに由来します。そして「22」は、平成元年、本格焼酎の税率が引き上げられたことを受け、「それでも新しい商品は造っていかなければならない」との強い思いで平成2年2月22日に売り出すのを決めたことからこの数字になりました。どちらも壱岐、そして玄海酒造ゆかりの数字なのです。
「壱岐スーパーゴールド22」は香り高さと飲みやすさで特に人気の銘柄、「壱岐スーパーゴールド33」はお酒好きの方に長く支持されている銘柄です。「スーパーゴールド」をお飲みになる際は、このふたつの数字にまつわるエピソードもちょっと思い返してみてください。
【参考文献】
・『壱岐焼酎』(山内賢明)
・『厳選「本格焼酎」手帖』(出倉 弘子)