友人を招いた家飲みの最中。氷を入れたグラスに焼酎を注ぎ、しばらくお喋りに興じている間に、氷がすっかり溶け、気づけばお酒の味が薄くなってしまっていた──。そんな経験をしたことがある方はきっと少なくないだろう。

普段あまり注目されることのない“氷”だが、実はお酒の味を引き立たせる重大な役割を果たしている。プロのバーテンダーの中には、氷を「欠かせない調味料のひとつ」と捉えている方もいるほどだという。

せっかくのいいお酒ならば、できる限り本来の味を損なわずに楽しみたいもの。自宅で焼酎ロックや炭酸割りを味わう際の氷の選び方やお酒の注ぎ方のポイントを、“氷”の専門家である中央冷凍産業の代表取締役・伊藤弘光さんに伺った。

 

そもそも、家庭用の冷凍庫の製氷皿を使ってつくる氷が溶けやすいのは、製氷時間が短いことが大きな要因だと伊藤さんは言う。

「家庭用の冷凍庫でつくった氷が溶けやすいのは、およそ-18℃から-20℃という低い温度で急速に凍らせているためです。ほんの2~3時間という短い時間で効率的にものを凍らすことができるのは家庭用の冷凍庫の大きな利点なのですが、氷をつくろうとすると、空気が水の中から逃げられないまま固まって、白っぽく残ってしまう。空気が多い分、常温で放置しているとすぐに溶け出してしまうんです。また、水道水のカルキ臭がそのまま残ってしまうこともあり、味の面でもやや劣ります」

一方で、氷屋がつくる飲料用の氷は“純氷”と呼ばれる。家庭でつくる氷と同じく原水は水道水だが、製氷の過程でカルキをはじめとする不純物や空気を99%排除することによって水分子のみが結晶化し、透明で濁りのない氷になるのだという。

「純氷は-10℃前後で丸2日、48時間以上をかけてじっくりと凍らせています。製氷の過程で溜まってしまう空気を丁寧に取り除きながらつくるので、どこまでも純粋かつ透明で締まった氷になる。『純氷の味の特徴は?』とよく聞かれるのですが、無味無臭なのが最大の特徴なんです。カルキ臭などの余計なにおいや味がしないので、美味しいお酒の味や香りをそのまま楽しんでいただける。だからこそ、バーテンダーの方や飲み物にこだわる飲食店の方の中には、お酒には必ず純氷を使うという方が多いのだと思います。

スーパーやコンビニで手に入る飲料用の氷のほとんどは、ターボ製氷という方式でつくられています。大量生産でき、氷を切らすことがないのが利点なのですが、短時間で凍らせているので、こちらも溶けやすい。美味しい焼酎やウイスキーなどをロックで飲む際には、ぜひ氷屋の氷を使ってみてほしいと思います」

 

純氷でつくられた氷の中にも、形と用途によっていくつかの種類があるという。焼酎をロックで飲む際にはどのような氷がおすすめかを尋ねると、「お酒の強さや気分にもよるので、そのときどきによって選んでいただければ」と伊藤さん。

「ごろごろとした形が特徴のいわゆる『かち割り氷』(写真左)は、やや溶けやすいけれどグラスや飲み物が早く冷えるのが特徴です。また、バーなどで愛用いただいている『丸氷』(写真中央)は角がないためなかなか溶けず、お酒の味を保ったままで飲みつづけることができます。ですから度数の高い焼酎を飲むときやお酒の味の変化を楽しみたいときであればかち割り氷、あまり濃さを変えずによく冷えたお酒を飲みたいときであれば丸氷、と使い分けをされるといいのではないでしょうか。

また、丸氷もそうですが、バーや飲み物にこだわる居酒屋さんなどでは氷の見た目も含めてお酒を楽しんでもらいたいと、高めのグラスのサイズにぴったり合うような氷を選ばれる場合もあります。

当社では『ハイボール氷』(写真右)という氷を販売しているのですが、これは飲み物が冷えやすいのに溶けにくいため、氷を変えずに何杯もハイボールを楽しんでいただくことができる氷。もちろんハイボールだけでなく、焼酎の炭酸割りをご家庭で飲まれる際にもおすすめです。透明度が非常に高く、グラスの上まで飲み物を注ぐとまるで氷がなくなってしまったように見えるので、海外の方からは『ニンジャアイス』と呼ばれているんですよ」

 

氷の最大の敵は温度変化。冷凍庫から出した直後の冷たい氷にお酒を注ぐと表面に亀裂が入ってしまうことがあるため、見た目の美しさにもこだわりたい場合は、氷をすこしだけ団扇で扇いだり、常温でしばらく放置して表面を湿らしたりするとよいという。

「焼酎をロックや炭酸割りで飲む際は、グラスをよく冷やし、できるだけ焼酎が氷に直接当たらないように注意して注いでみてください。せっかくの美味しい焼酎を飲む際はぜひ純氷を。お酒本来の風味を感じることができますし、なかなか氷が溶け出さないので長い時間、晩酌を楽しむことができますよ」

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