夜、ひと仕事終えたあとにちょっとした肴をつまみながら、お気に入りの焼酎をゆっくりと味わう。焼酎党の人のなかには、そんな贅沢なひとり時間を、週末のささやかな楽しみにしている方も少なくないのではないだろうか。

けれどそんなとき、なんとも悩ましいのが、どんな酒器を選ぶかだ。ふだん使いのマグカップやコップでお酒を嗜むのはなんだか味気ないし、お猪口やワイングラスではサイズがすこしちぐはぐな気がする──。ロック、水割り、お湯割りなど、多様な飲みかたができるのは焼酎ならではの魅力だが、だからこそ、お酒を楽しむための“うつわ選び”にも工夫が必要そうだ。

今回はそんな、焼酎をより美味しく味わうための酒器選びのポイントを、東京・神楽坂でうつわの専門店「コハルアン」を営む、はるやまひろたかさんに伺った。

「コハルアン」には、はるやまさんが全国各地を自ら旅してセレクトしたうつわがずらりと並ぶ。販売されているうつわは種類や材質ごと、あるいは作家ごとに棚にまとめているわけではなく、あえてミックスして置いているという。

「一見、合わせる想像がつかないようなうつわや、異なる素材のうつわ同士を一緒に置くことで、実際に使っていただくときのイメージが膨らみやすくなるんじゃないかなと思っています。一つひとつの棚ごとに小さな物語を綴るような感覚で並べていますね」。

うつわは飾って楽しむためのアート作品ではなく、あくまで実際に使うことによって真価が発揮される日用品だ。だからこそ、カジュアルにふだん使いできるような機能性がありながらも、手仕事ならではの風合いが感じられるうつわをセレクトしたい、というのがはるやまさんのこだわりだ。

「うつわは五感を通じて楽しむもの。焼酎を味わう場合は、飲みかたによって異なるうつわを選ぶことで、味覚だけでなく視覚、聴覚、嗅覚、触覚でもお酒の魅力を感じることができるのではないかと思います。

たとえばストレートやロックの場合は、焼酎の香りがいちばんダイレクトに伝わってきますから、香り立ちのいいうつわがいいですね。ストンとしたロックグラスももちろんすてきですが、丸みのあるものだと香りがグラスの中にややこもるので、香りのよさを楽しみながら長く焼酎を味わいたいときには、すこし丸みのあるグラスもおすすめです。

それから、水割りの場合は氷を浮かべますから、カランカラン、という氷の涼しげな音を耳で楽しむことのできる磁器のカップやグラスはぴったりだと思います。ちょっと大きめのサイズのそば猪口などもいいですね。磁器やガラスは香りがつきにくい材質ですから、二杯目、三杯目と違う焼酎を飲みたくなったときにも軽く洗えば香りがリセットされるので、家飲みの際は特におすすめです」

「お湯割りの際は、陶器のカップがいいんじゃないかと思います。熱しやすく冷めやすい磁器やガラス器と比べると、陶器は保温性が高く、お湯の熱さがじんわりと穏やかに伝わってくるんですよ。寒い夜に家に帰ってきてちょっと一杯、なんてときに、手のなかで焼酎の温かみを感じながら飲むのにぴったりではないでしょうか。

そして、炭酸割りの場合はやはり炭酸がシュワシュワと弾ける様子を目で楽しんでいただきたいので、すこし大きめの綺麗なグラスがおすすめです。もちろんクリアなグラスもいいですが、すこし遊び心のある色や柄つきのグラスを選んでみると、レモンを浮かべたりしても可愛らしいですよ」

うつわを選ぶ際は、飲みかただけでなく、その日味わいたい焼酎の色合いや香り、ラベルのデザインなどを手がかりにするのもよさそうだ。玄海酒造の焼酎「壱岐ブルー」と「壱岐スーパーゴールド」に合わせる酒器をセレクトしてほしい、とはるやまさんにお願いすると、涼やかな見た目の青いグラスと、白磁のカップを選んでくださった。

「『壱岐ブルー』は焼酎自体の色がクリアですし、爽やかなパッケージと並べたときにも、このグラスは特に合うんじゃないかなと。『壱岐スーパーゴールド』は琥珀色の焼酎のゴージャスさを視覚的にも楽しんでいただきたいので、焼酎の色が綺麗に出る白磁のうつわかクリアグラスがよさそうです」

ひとりでじっくりと焼酎の家飲みを楽しむなら、特別感のあるうつわもいいけれど、まずはシンプルで使いやすい酒器をひとつ持っておくのがいいのでは、とはるやまさんは提案する。

「180ccから200ccくらい入るすこし大きめサイズのそば猪口は、ご自宅にひとつあるとすごく重宝しますよ。それひとつで水割りやロック、お湯割りでも焼酎が楽しめますし、ふだんはちょっとしたおつまみやおかずを盛るのにも使えます。なにより安定感があるので、焼酎好きな方への贈りものにもいいですし、凝ったグラスなどは酔ったときに割ってしまわないかちょっと心配……という方にもおすすめですね」

せっかく美味しいお酒を楽しむのならいい酒器で味わいたい、と思いながらも、触れるのに細心の注意を払わなくてはいけないようなうつわでは緊張して酔いが覚めてしまう、という方も多いだろう。酒器選びの基本は、あくまで日常的な使いやすさにこだわりつつ、自分の五感を楽しませてくれるものをセレクトすること。肩肘張らずにお酒を味わえる、とっておきの酒器に出会えたら、日々の晩酌がより楽しくなるはずだ。

 
 
【取材協力:コハルアン】
・住所……東京都新宿区矢来町68 アーバンステージ矢来101
・営業時間……12:00-18:00(日・祝・展示最終日は12:00-17:00)
・定休日……店舗HPのカレンダー参照

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うつわのプロに聞く、焼酎がもっと美味しくなる酒器の選び方

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